【書評】じつは奥深いヌードをくわしく知れる書『ヌードがわかれば美術がわかる』

《ミロのヴィーナス》アップ アート
《ミロのヴィーナス》

 

ヌードは意外と奥が深いということがわかる本でした。

タイトルの通り「ヌード」を理解することを通して、美術も理解しようという狙いがありますね。

 

「ヌード」といえば、全裸の女性がモチーフになった絵画や彫刻というイメージです。

ただそれを性的に見るだけじゃあもったいない。

真剣に見るといろんなことがわかるんですね、ヌードって。

 

『ヌードがわかれば美術がわかる』は、美術・アートについて興味があるけれど、なんとなくむずかしそうで遠ざけている、という人におすすめです。

なぜなら、ヌードは美術の中でも一番とっつきやすいジャンルだからです。

 

ヌードは身近なもの

 

「ヌード」には、人間の肉体そのものの美しさが表現されています

 

人間の体ということは、もちろんわたしたち自身の体のことです。

自分の体はいちばん身近なものですよね。だから、美術の中でも「ヌード」は身近なんです。

 

まあ、性的な欲望から「ヌード」に引かれるという面もありますが。

 

本書は、ヌード美術の歴史について書かれています。といっても、集英社の新書なので、むずかしい歴史書ではないです。

 

布施さんが、解剖学者であるからか、ヌードの歴史を丁寧に解剖していくというスタンスで話が進んでいきます。

 

一口に「ヌード」といっても、いろいろあるんですね。

 

彫刻もあれば模型もある。絵画があれば写真がある。最近では、アンドロイドのヌードなんてものまであるみたいです。

 

ヌードは古代ギリシアからはじまった

 

じつはヌードは、最初から美術のなかにあったわけではありませんでした。

ヌードは長らくタブーとされていました。

でもそれを破って、ヌードを美術作品としてつくった人がいたのです。古代ギリシアの終わりごろのことです。

 

女神たちは、ある時を境に服を脱いだ。いったいいつ、誰が、そのような彫刻を作り始めたのか?

はじめて女神を裸にした彫刻家、その名をプラクシテレスという

 

美術としてのヌードをはじめたのは、このプラクシテレスという人でした。

 

彼が作った彫刻のひとつが、『クニドスのヴィーナス』という作品です。

《クニドスのヴィーナス》

《クニドスのヴィーナス》

 

でもその功績のわりに、この彫刻はあまり知られていませんよね?

それは、現在残っているのが、オリジナルではなくコピーだからなんです。

 

美術館にあるこの彫刻は、プラクシテレスがつくったものではないですね。

後の時代にべつの誰かが、プラクシテレスの彫刻をまねしてつくったものなんです。

 

コピーしか残っていないとはいえ、『クニドスのヴィーナス』の重要性は変わりません。

どうしてかというと、このあと、絵画や彫刻でたくさんのヌードがつくられるからです。

 

プラクシテレスは、ヌード美術の元祖なんですね。

 

ヌード界のスター、ミロのヴィーナス

 

ヌードの彫刻ときいて

「おいおい、何かを忘れてないか?」

と思いましたよね。

 

「ヌード」「彫刻」といえば、超有名なあれがあります。

 

そうです、《ミロのビーナス》です。

《ミロのヴィーナス》

《ミロのヴィーナス》

 

どうして、《ミロのビーナス》は《クニドスのヴィーナス》に比べてはるかに人気があるのか。

 

それは《ミロのビーナス》が、オリジナル(本物)だからなんです。

オリジナルで、かつ、等身大(人と同じ大きさ)以上のヴィーナス像は、《ミロのビーナス》だけ。

ルーヴル美術館に人が殺到するわけです。

 

解剖学からみたヌードとは?

 

著者の布施英利さんは、美術批評家で解剖学者です。

 

ヌードの美術についての本だから、美術批評家は納得です。

が、解剖学者というのが気になりますよね。でもこれがこの本のスパイスになっていて面白いのです。

 

何が面白いのかというと、たびたび出てくる解剖学者的な切りこみです。

 

《ミロのビーナス》について、解剖学の視点からこんな解説がされています。

 

いわく、

乳房の位置がおかしい。

このヴィーナス像は、左肩が上にあがっている。

肩が上がると、大胸筋が鎖骨に引っ張られて上にあがる。

つられて、乳房も上にあがるはず。

それなのに、左右の胸は同じ高さにある。

 

つまり、《ミロのヴィーナス》は“フィクション”だったのです。

たしかに、両方の胸がほとんど同じ位置にあります。

《ミロのヴィーナス》アップ

《ミロのヴィーナス》部分

 

 

実際のモデルをありのまま彫刻にしたわけじゃない。

つくった人の想像が入っていたんです。

 

現実の女性では、ありえないポーズ、体の構造になっている…

普通に見ていただけでは、まず気づかないことですね。

 

まとめ:ヌードは奥が深い

 

世間的には、「ヌード」といえば、俗っぽいものという意識があります。

でも、美術としてのヌードは、低俗どころかとても奥が深いのです。

 

この本を読んで「ヌード」にますます興味がわきました。

どうせヌードには引きつけられますしね。それなら思いきってヌードにハマったほうが人生を楽しめそうです。